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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)6586号 判決

○当事者

原告

株式会社岡村製作所

右代表者代表取締役

吉原謙二郎

原告

深沢虎男

右両名訴訟代理人弁護士

鈴木半次郎

右輔佐人弁理士

竹沢荘一

被告

ネコス株式会社

右代表者代表取締役

根上耕一

右訴訟代理人弁護士

加藤真

○主   文

一 被告は、別紙(一)の図面およびその説明書記載の座高調節部を有する椅子(幹部用デラツクス型、幹部用百二十五型、同百三十型、同百四十型および同百五十型の五種類)を製造し、譲渡し、又は譲渡のために展示してはならない。

二 被告は、原告深沢虎男に対し、金三百八十七万円、原告株式会社岡村製作所に対し、金三百四十一万七千三百十六円五十一銭および右各金員に対する昭和三十六年九月三日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

三 原告らのその余の請求は、棄却する。

四 訴訟費用は、これを五分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

五 この判決は、第一、第二項に限り、仮に執行することができる。

○事   実

第一 当事者の求めた裁判

一 原告ら訴訟代理人は、主文第一項同旨および「二、被告は、原告らに対し、各金三百八十七万円およびこれに対する昭和三十六年九月三日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。三、被告は別紙(二)記載の謝罪広告を朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日本経済新聞および産業経済新聞の各全国版に各一回ずつ掲載せよ。四、訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決ならびに右第一、第二項について仮執行の宣言を求めた。

二 被告訴訟代理人は、「一、原告らの請求は、いずれも棄却する。二、訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。

第二 当事者の主張

(請求の原因等)

原告ら訴訟代理人は、請求の原因等として、次のとおり述べた。

一 原告らの実用新案権

原告深沢虎男(以下「原告深沢」という。)は、昭和三十二年九月十六日設定の登録により次の実用新案権(以下「本件実用新案権」という。)を取得し、原告株式会社岡村製作所(以下「原告会社」という。)は、昭和三十二年十二月二十八日、原告深沢からその二分の一の持分を譲り受け、昭和三十三年六月三日、その登録手続を了した。

登録番号 第四六五、三一二号

考案の名称 椅子

出   願 昭和三十年九月十日

出願公告 昭和三十二年六月十一日

登   録 同年九月十六日

二 登録請求の範囲

本件実用新案登録出願の願書に添付した明細書の登録請求の範囲の記載は、別紙(三)実用新案公報の該当欄記載のとおりである。

三 本件実用新案の特徴

(一) 本件実用新案の要部は、次の(1)から(6)までの要件からなる椅子の構造であることにある。

(1) 支脚1(番号は、別紙(三)の図面に付されているものを示す。以下本件実用新案について同じ。)の轂部2に螺糸軸3を緩挿すること。

(2) 螺糸軸3には縦溝4を設けること。

(3) 凹溝8を有する母螺7を螺糸軸3に螺合すること。

(4) 母螺7と脚頭との間に控止環10を介装すること。

(5) 控止環10の突起12を螺糸軸3の縦溝4に係合すること。

(6) 固定爪9を母螺7の凸溝8に係合すること。

(二) 本件実用新案は、右構造により、次の作用、効果をあげることをその目的とする。

(1) 母螺7をまわせば、螺糸軸3は控止環10に抑制されるため回転することなしに昇降し、これにともなつて座席も回転することなしに昇降すること。

(2) 座席を回転すると、母螺7および控止環10もともにまわり、その高さを変化することなく、座席を所望の方向に向けることができること。

四 被告の椅子の構造およびその特徴

(一) 被告の製造、販売にかかる椅子(幹部用デラツクス型、幹部用百二十五型、同百三十型、同百四十型および同百五十型の五種類)の構造は、別紙(一)の図面およびその説明書記載のとおりである。

(二) 被告の椅子の構造上の特徴は、次の(1)から(7)までにある。

(1) 支脚1(番号および符号は、別紙(一)図面に付されているものを示す。以下被告の椅子について同じ。)の轂部2に螺糸軸3を緩挿すること。

(2) 螺糸軸3には縦溝4を設けること。

(3) 凹溝8を有する母螺7を螺螺糸軸3に螺合すること。

(4) 母螺7と脚頭との間に控止環10を介装すること。

(5) 控止環10の突起12を螺糸軸3の縦溝4に係合すること。

(6) 固定爪9を母螺8の凹溝に係合すること。

(7) 控止環10の上面に形成した放射状の回り止め突条aを母螺7の下面に形成した放射状の回り止め溝条bに係合すること。

(三) 被告の椅子は、右構造により本件実用新案と同一の作用、効果をあげることができる。

五 本件実用新案と被告の椅子との対比

被告の椅子と本件実用新案とを対比するに、両者とも、在来の螺旋軸型椅子において、座席を回転すると座席が昇降し、座席を昇降するには座席を回転せざるをえなかつた不便を取り除くための座高調節部を備えた椅子であり、被告の椅子は、本件実用新案の構成に欠くことのできない前記三の(一)の(1)から(6)までの構造をすべて具備し、作用、効果においても本件実用新案が目的とする前記三の(二)の(1)および(2)の作用効果をあげうるものであるから、被告の椅子は、本件実用新案の技術的範囲に属する。

もつとも、被告の椅子においては、前記五の(一)の(7)の構造により、使用にともなう座席の自然降下を防ぐことができる。しかし右構造は椅子の製造業者であれば極めて容易に推考しうる程度の付加的要素であり、この構造に基づいて生ずる作用、効果も付随的なものにすぎない。仮に、右構造が重要な要素であるとしても被告の椅子は、本件実用新案の構成に欠くことのできない構造をすべて具備しているから、本件実用新案を利用するものである。

六 差止請求

被告は、椅子の製造、販売を業とする会社であるところ、現に前記四記載の椅子を製造し、譲渡し、又は譲渡のために展示している。しかして、被告の椅子が本件実用新案の技術的範囲に属すること前記のとおりであり、被告の右行為は原告らの本件実用新案権を侵害するものであるから、請求の趣旨第一項のとおり、その差止めを請求する。

七 損害賠償請求

(一) 被告は、本件実用新案権を侵害することを知り、又はこれを知ることができたにもかかわらず過失によりこれを知らないで、昭和三十三年一月一日から昭和三十五年三月三十一日までの間に前記四記載の椅子を一万三千五百脚製造して、これを金一億六千二百万円で販売し、昭和三十五年四月一日から昭和三十六年七月三十一日までの間に、同じく八千脚製造して、これを金九千六百万円で販売した。

(二) 原告らは、被告の右行為により、本件実用新案の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の損害をこうむつた。しかして、原告らが被告の椅子について本件実用新案の実施料として通常うけるべき金額は、その販売価額の三パーセントを相当とするから、原告らの損害額は金七百七十四万円である。

(三) 原告らは、本件実用新案権につき各二分の一の持分を有するから、被告に対しそれぞれ右損害額の二分の一である金三百八十七万円およびこれに対する不法行為ののちである昭和三十六年九月三日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

八 信用回復の措置の請求

原告らは全国主要都市に営業所代理店等を有するところ、被告が、原告らの許諾なしに本件実用新案の実施をし、その全国的販売機構を通じて右実施品を製造販売したため、椅子製造業者らに対し、原告らが本件実用新案の実施をする権利を専有するものではなく、何人でも自由に本件実用新案の実施をしてもよいものと誤認させるに至り、原告らが被告の本件実用新案権侵害前に椅子製造業者その他から受けていた椅子製造業者としての業務上の信用は全国的に著しく害され、その結果は、原告らの製品の販売高の減少となつてあらわれている。よつて、原告らは、被告に対し、業務上の信用を回復するため、実用新案法第三十条および特許法第百六条の規定により、請求の趣旨第三項のとおり、別紙(二)記載の謝罪広告の掲載を求める。

九 被告の権利濫用の主張について。

答弁等八の事実のうち、ナシヨナル金銭登録株式会社が別紙の図面およびその説明書記載の構造を有する椅子を、原告会社が別紙(五)の図面およびその説明書記載の構造を有する椅子を、それぞれ製造、販売したこと、および、登録第三九五、〇二九号実用新案権「回転椅子における昇降装置」が存在することは認めるが、その余の点は否認する。

なお、公知例の存在は、本来、出願公告の段階では異議の申立の形で、設定の登録後は審判の請求の形で、主張すべき事項であり、それをもつて、直ちに、有効に存在する実用新案権の行使を制限すべき事由とはなしえないから、原告らの本訴差止請求はなんら権利の濫用と目すべきものではない。

(答弁等)

被告訴訟代理人は、答弁等として、次のとおり述べた。

一 請求の原因一および二の事実は、認める。

二 同三の事実のうち(一)の点は認めるが、(二)の点は争う。

本件実用新案の技術的範囲は、原告らが主張する請求の原因三の(一)の(1)から(6)までの要件を備えた椅子であることにあり、しかも、控止環10の上面および母螺7の下面に回り止め突条および回り止め溝条がないものに限られるものである。

したがつて、本件実用新案においては、螺糸軸3の縦溝4と控止環10の突起12との間にある程度の遊隙が生ずることは避けられないから、使用中に座席が反覆回転する際、母螺7と控止環10との間に滑動が生じて、座席はわずかずつ自然に降下する、という作用効果上重大な欠陥がある。

三 同四の事実は認める。

四 同五について。

(一)の点は認める。

(二)の点は否認する。被告の椅子は、原告ら主張のような構造により、次の作用、効果をあげることができる。

(1) 螺糸軸3が回転すれば、螺糸軸3の縦溝4と控止環10の突起12とが係合しているうえに、固定爪9により回り止め突条aと回り止め溝条bとが係合して一体となつているので、螺子軸3、したがつて、座席は、全く降下することなく回転すること。

(2) 母螺7を回転すれば、その回り止め溝条bが静止している控止環10の回り止め突条を滑りながら乗り越えて、母螺7だけが回転するので、座席を回転することなしに、その高さを調節することができること。

(三)の点は争う。本件実用新案の技術的範囲は、前述のとおり、控止環10の上面および母螺7の下面に回り止め突条および回り止め溝条がないものに限られるものであるところ、被告の椅子は右構造を有し、その結果、前記の作用効果上の差異を生ずるから、被告の椅子は、本件実用新案の技術的範囲に属しない。

五 同六の事実は認めるが、原告らの差止請求は、理由がない。

六 同七について。

(一)の事実のうち、故意過失の点は否認し、その余の事実は認める。

(二)の事実は、否認する。

(三)の事実のうち、原告らが本件実用新案権につき各二分の一の持分を有することは認めるが、その余の事実は争う。

七 同八の事実は否認する。

八 権利の濫用

原告の本訴差止請求は、権利の濫用であり、許されないものである。けだし、本件実用新案は、以下の公知例から明らかなように、その実用新案登録出願の日である昭和三十年九月十日以前に日本国内において公然知られ、又は実施をされており、本来実用新案登録を受けることができなかつたものだからである。

(一) ナシヨナル金銭登録機株式会社(東京都中央区銀座六丁目二番地)は、昭和二十五年ごろから、別紙(四)の図面およびその説明書記載の構造を有する椅子を製造、販売しているが、この椅子は本件実用新案の構成要件をすべて具備している。

(二) 原告会社は、昭和二十五年ごろから、別紙(五)の図面およびその説明書記載の構造を有する椅子を、製造販売しているが、この椅子は、本件実用新案の構成要件をすべて具備している。

(三) 昭和二十七年二月二十九日公告された登録第三九五、〇二九号実用新案権「回転椅子における昇降装置」は、本件実用新案の構成要件をすべて具備している。

第三証拠関係≪省略≫

○理   由

第一、原告らの実用新案権

原告深沢が昭和三十二年九月十六日設定の登録により本件実用新案権を取得し、原告会社が昭和三十三年六月三日付移転登録により原告深沢からその二分の一の持分を取得したことは、当事者間に争いがない。

第二、被告の椅子は、本件実用新案の技術的範囲に属するか。

(争いのない事実)

一、本件実用新案登録出願の願書に添付した明細書の登録請求の範囲の記載が別紙(三)実用新案公報の該当欄記載のとおりであることおよび被告の製造、販売にかかる椅子が別紙(一)の図面および説明書記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(本件実用新案の要部)

二、当事者間に争いのない前記登録請求の範囲の記載に、成立に争いのない甲第二号証(実用新案公報)および鑑定人(省略)の鑑定の結果を参酌して考察すると、本件実用新案の要部は、

(1) 支脚1の轂部2に螺糸軸3を緩挿し、

(2) 螺糸軸3には縦溝4を設け、

(3) 凹溝8を有する母螺7を螺糸軸3に螺合し、

(4) 母螺7と脚頭との間に控止環10を介装し、

(5) 控止環10の突起12を螺糸軸3の縦溝4に係合し、

(6) 固定爪9を母螺7の凹溝8に係合して、

なる椅子の構造にあるものとして認められる。

もつとも成立に争いのない乙第五号証から第七号証に記載されれた弁理士(省略)の意見によれば、本件実用新案登録出願の当時すでに、右(1)から(6)までの構造を有するうえに、控止環10の上面および母螺7の下面に回り止め突条および回り止め構条を備えた椅子が公然製造、販売されていたことから、右のような回り止め突条および回り止め溝条がないことが本件実用新案の構成要件の一であると解すべきであるかのようであるが、本件実用新案登録出願の当時、座高調節部はあるが、右のような回り止め突条および回り止め溝条のない椅子もすでに公然知られており(このことは前記乙第七号証および鑑定人(省略)の鑑定の結果によりより認められる。)、かつ、作用、効果の点において、回り止め突条および回り止め溝条のない椅子は、それがある椅子に比して少なからず劣ること後記認記のとおりであることに徴し、右のごとき構造を省略することが本件登録実用新案の要件であるとは到底考えることができないから、前記見解はにわかに賛同しがたく、また、鑑定人(省略)の鑑定の結果中本件登録実用新案の権利範囲についての見解も客観的合理性を欠くものがあり、他に前記認定を覆すに足る資料はない。

(本件実用新案の作用、効果)

三、前記甲第二号証および乙第五号証から第七号証ならびに鑑定人(省略)の鑑定の結果によれば、本件実用新案の実施品は前記構成要件に当たる構造により、

(1) 座高調節部を備えない従来の回転椅子における座席の回転と昇降との必然的な関連を一応断ち切り、母螺7をまわせば螺糸軸3は控止環10に抑制されるため回転することなしに昇降し、これに伴い座席も回転することなしに昇降し、また座席を回転すれば、母螺7および控止環10も共にまわり、少なくとも一時的には、座席をその高さを変化することなく所望の方向に向けうるという作用、効果を生ずるが、

(2) 螺糸軸3の縦溝4と控止環10の突起12との間における程度の遊隙が生ずることはこの種製品においては、製作上避けられないところであるから、螺糸軸3が螺糸の傾斜面を降る方向ににまわる場合には、その初期に座席は降下するが、螺糸軸3がそれと反対方向にまわる場合には、座席が上昇するに要する力より、控止環10と母螺7との摩擦力の方が小さいため、控止環10と母螺7との間に滑動を生じて座席は上昇せず、このため座席の正逆両方向の回転のうち一方向の回転によつて生じた降下が蓄積されて、長時間の間には座席が相当降下するという欠点がある、ことが認められ、これに反する鑑定人(省略)の意見は、前記各証拠に照らし措信しがたく他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(被告の椅子の特徴)

四、被告の椅子の構造上の特徴が、次の(1)から(7)の点にあることは本件当事者間に争いがない。

(1) 支脚1の轂部2に螺糸軸3を緩挿すること。

(2) 螺子軸3には縦溝4を設けること。

(3) 凹溝8を有する母螺7を螺糸軸3に螺合すること。

(4) 母螺7と脚頭との間に控止環10を介装すること。

(5) 控止環10の突起12を螺糸軸3の縦溝4に係合すること。

(6) 固定爪9を母螺7の凹溝8に係合すること。

(7) 控止環10の上面に形成した放射状の回り止め突条aを母螺7の下面に形成した放射状の回り止め溝条bに係合すること。

しかして、右事実と前掲乙第五号証から第七号証、成立に争いのない同第八号証の一、証人(省略)の証言によりその成立を認めうべき同第八号証の二および鑑定人(省略)の鑑定の結果をあわせ考えれば、被告の椅子は右特徴を形成する構造により、

(1) 前記三の(1)の作用、効果をあげうるばかりでなく、

(2) 控止環10の上面に存する放射状の回り止め突状aと母螺7の下面に存する放射状の回り止め溝条bとが係合して、控止環10と母螺7とが一体となつている結果、螺糸軸3が螺糸の傾斜面を降る方向に回転する際、最初の一回だけ僅かに降下するが、それ以後は、座席を正逆いずれの方向に回転しても、座席は同一の高さに保たれ、長時間の使用による座席の自然降下を防ぎうることが認められ、これを覆すに足る証拠はない。

(本件実用新案と被告の椅子との対比)

五、以上の事実に、鑑定人(省略)の鑑定の結果を参酌して、本件実用新案と被告の椅子とを対比すれば、後者が前者の構成要件に当たる構造をすべて具備しており、右構造により前記三の(1)の作用用、効果をあげうることは、きわめて明瞭である。なお前認定のとおり、被告の椅子は、本件実用新案の構成要件に当たる構造以外に前記四の(7)の構造を具備し、その結果本件実用新案では達成できない座席の自然降下の防止が可能であるが前認定の各事実に徴すれば、これとても本件実用新案の有する前記三の(1)の作用、効果を前提とし、それを改良したものであり、毫もそれを減殺するものではないといわざるをえない。

以上のとおりであるから、被告の椅子は本件実用新案の要件を構成するすべての構造を具備し、ただこれに前記四の7の構造を付加したものにすぎないというべきであり、したがつて、本件実用新案の技術的範囲に属するものということができる。

第三、差止請求について

一、被告が現に業として別紙の図面およびその説明書記載の椅子を製造し、譲渡し、又は譲渡のために展示していることは、当事者間に争いがないところ、右椅子が本件実用新案の技術的範囲に属することは前判示のとおりであるから、前記行為の差止めを求める原告らの請求は、理由があるものということができる。

(権利濫用の抗弁について。)

二、被告は、本件実用新案は新規性を欠き本来実用新案登録をうけることができなかつたものであるから、かかる実用新案権に基づく差止請求は権利の濫用として許されない旨主張するが、仮に被告主張のとおり、本件実用新案が新規性を欠くものであつたとしても、そのことだけで直ちに本件実用新案権に基づいて差止請求することが権利の濫用であると断じがたいことはいうまでもなく、他に原告らの差止請求を権利の濫用とすべき事由について何ら主張立証はないから、被告の権利濫用の抗弁は採用しうべくもない。

第四、損害賠償請求について。

(不法行為の成立)

一、被告が昭和三十三年一月一日から昭和三十五年三月三十一日までの間に金一億六千二百万円にのぼる前記椅子を、昭和三十五年四月一日から昭和三十六年七月三十一日までの間に金九千六百万円にのぼる前記椅子を、それぞれ業として製造、販売したことは当事者間に争いがなく、右椅子が本件実用新案の技術的範囲に属するものであることは前判示のとおりであるから、被告がこれを製造、販売したことは原告らの有する本件実用新案権を侵害したものというべきである。

しかして、椅子の製造、販売業者は椅子に関する特許又は実用新案の出願公告には十分な注意を払い、その内容を理解してこれらの権利を侵害することのないよう相当の注意をしなければならないことは、業者として当然というべきところ、被告が椅子の製造、販売を業とする株式会社であること、および本件実用新案の出願公告が昭和三十二年六月十一日にされたことは当事者間に争いがないから、被告は右侵害行為について、少なくとも過失があつたものというべきであり(なお昭和三十五年四月一日以降については、過失が法律上推定される。)これを覆すに足る証拠はない。

したがつて、被告は本件新案権の侵害によつて原告らがこうむつた損害を賠償すべき義務があるものといわなければならない。

(損害額)

二、よつて進んで、損害の額につき案ずるに、もし被告が原告らの許諾を得て前記椅子を製造、販売したとすれば、原告らは本件実用新案の実施に対し通席受けるべき金銭の額をその実施料として取得できたはずであるから、原告らは被告の前記侵害行為により右実施料を取得しえない結果、これに相当する額の損害をこうむつたものとみるべきところ、原告らはその額は実施品の販売価額の三パーセントを相当とすると主張する。しかして被告が原告ら主張の期間に合計金二億五千八百万円の本件椅子を販売したことは、前記のとおり当事者間に争いなく、また、成立に争いのない甲第十号証および証人(省略)の証言によれば、原告ら主張の実施料額は本件実用新案の実施に対し実用新案権者が通常受けるべき金銭の額の範囲内であることを認めうべく、これに反する証拠はないから、原告らに対し前記販売総額金二億五千八百万円の三パーセントに当たること計数上明らかな金七百七十四万円の損害をこうむつたものというべきである。しかるところ、昭和三十三年一月一日から同年六月二日までの間は、原告深沢が本件実用新案権の単独権利者であり、同月三日から昭和三十六年七月三十一日までは、原告両名が各二分の一ずつの持分を有すること前認定のとおりであり、また特段の事情の認められない本件においては、被告の侵害行為は、右全期間を通じて平均して行なわれたと認めざるをえないから、原告深沢は昭和三十三年一月一日から同年六月二日までの分金九十万五千三百六十六円九十七銭および同年六月三日から昭和三十六年七月三十一日までの分金六百八十三万四千六百三十三円三銭の二分の一にあたる金三百四十一万七千三百十六円五十一銭の同計額金四百三十二万二千六百八十三円四十八銭の損害をこうむり、原告会社は昭和三十三年六月三日から昭和三十六年七月三十一日までの分金六百八十三万四千六百三十三円三銭の二分の一にあたる金三百四十一万七千三百十六円五十一銭の損害をこうむつたものというべきである(計算は別紙(六)記載のとおり。)。

叙上のとおりであるから、被告に対し、右損害金の範囲内である金三百八十七万円およびこれに対する不法行為ののちである昭和三十六年九月三日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める原告深沢の請求は理由があるものというべく、原告会社の被告に対する請求は、前記損害金三百四十一万七千三百十六円五十一銭およびこれに対する昭和三十六年九月三日から支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるが、その余は失当といわざるをえない。

第五、信用回復の措置の請求について。

原告らは、被告の本件実用新案権侵害行為により、業務上の信用を著しく害されたと主張する。しかし被告の本件実用新案権侵害行為により、原告らの業務上の信用を害されたことを認めるに足る証拠はない。

したがつて、被告に対しその回復措置として、請求の趣旨第三項掲記の謝罪広告を求める原告らの請求は、爾余の点について別断をもちいるまでもなく、理由がないものといわざるをえない。

第六、むすび

以上説示のとおりであるから、原告らの請求は主文第一、第二項掲記の範囲内においては、正当として認容すべきも、その余は失当としてこれを棄却するほかはない。

よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十二条、第九十三条を、仮執行の宣言について同法第百九十六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官 三宅正雄 裁判官 武居二郎 裁判官 佐久間重吉)

別紙 (一)

説 明 書

1 支脚1の轂部2に螺糸軸3を緩挿し、

2 螺糸軸3には縦溝を設け、

3 外面に凹溝を有する母螺7(その頂部には倒椀状覆蓋Aを着設してある。)を螺糸軸3に螺合し、

4 母螺7の下面に放射状回り止め溝条bを形成し、

5 母螺7と脚頭との間に控止環10を介装し、

6 控止環10の突起12を螺糸軸3の縦溝に係合し、

7 控止環10の上面に形成した回り止め

突条aを母螺7の下面の回り止め溝条bに嵌合し、

8 支脚1より突き出した固定爪9を母螺7外面の凹溝8内に係合してある。

別紙(二)(省略)

別紙 (三)

特許庁実用新案公報(抄)

椅子

図面の略解(省略)

実用新案の説明(省略)

登録請求の範囲

図面に示す如く支脚1の轂部2に緩挿した螺糸軸3に縦溝4を設け、螺糸軸3に螺合する母螺7と脚頭との間に介装した控止環10の突起12を縦溝4に係合し母螺7の凹溝8に固定爪9を係合して成る椅子の構造。

別紙 (四)

説 明 書

1 支脚1の轂部2に螺糸軸3を緩挿し、

2 螺糸軸3には縦溝4を設け、

3 外面に凹溝8を有し、下面には放射状上部回り止め溝条1を有する母螺7を螺糸軸に螺合し、

4 母螺7と脚部との間には、上面に放射状下部回り止め突条aを有する控止環10を介装し、

5 控止環10の突起12を螺糸軸3の縦溝4に係合し、

6 支脚1よりの突起9に小ネジCを螺合し、小ネジを母螺7外面の凹溝内に係合してある。

別紙(五)

説 明 書

1 支脚1の轂部2に螺糸軸3を緩挿し、

2 螺糸軸3には縦溝4を設け、

3 外面に凹溝8を有し、下面には放射状上部回り止め溝条bを有する母螺7を螺糸軸3に螺合し、

4 母螺7と脚頭との間には、上面に放射状下部回り止め突条aを有する控止環10を介装し、

5 控止環10の突起12を螺糸軸3の縦溝4に係合し、

6 支脚1より突き出した固定爪9を母螺7外面の凹溝8内に係合してある。

別紙 (六)(省略)

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